台風や大雨で自宅への浸水が心配なとき、最優先でやるべきは「水道が生きているうちに水のうを作ること」です。作り方の基本は、厚手のゴミ袋を二重にして水を半分まで入れ、空気を抜いて口を固く結ぶ、これだけです。
ただし、ここで終わる記事がほとんどです。実際に必要なのは「何個作れば、何cmの浸水まで持ちこたえられるのか」「その重さを誰が運ぶのか」「いつ作り始めれば間に合うのか」という設計です。
葛飾区の資料によると、ごみ袋だけの簡易水のうで防げるのは水深約10cmが限度で、40Lごみ袋に半分の水を入れると1個約20kgになります。玄関幅1.6mを浸水深30cmに備えて塞ぐなら、単純計算で27個・総重量約540kg・給水だけで約54分かかります。この数字を知らないまま台風接近を待つと、確実に間に合いません。
この記事では、自宅の開口部の幅と想定浸水深から必要個数を逆算する早見表、袋サイズ別の仕様マトリクス、そして離れて暮らす高齢の親の家も含めた「台風接近72時間タイムライン」まで、実行できる形で整理します。
水のうは浸水を完全に止める設備ではなく、恒久対策(止水板)までの「つなぎ」です。総重量が300kgを超える規模になるなら、水のうづくりより早期避難と止水板助成の検討に切り替えてください。
結論:台風前にまず何をすべきか
最優先は「ハザードマップで想定浸水深を確認し、必要個数を逆算してから、水道が止まる前に作ること」です。作業そのものより、個数の逆算と着手タイミングが結果を分けます。
最初の30分でやる3つのこと
順番を守ってください。作り始める前の確認が、無駄な作業と危険を減らします。
- 自宅の想定浸水深を調べる:国土交通省の「重ねるハザードマップ」や自治体の洪水・内水ハザードマップで、自宅の色(想定浸水深)を確認します。0.5m未満か、0.5〜3.0mかで対応が根本的に変わります。
- 守る開口部の幅を測る:玄関、掃き出し窓、勝手口、駐車場からの浸入口。合計何メートルかをメジャーで測ります。
- 必要個数を逆算する:後述の早見表で、個数・総重量・給水時間を確認します。ここで「無理」と分かれば、作業を止めて避難計画に切り替えられます。
想定浸水深が0.5m以上なら水のうは主役にしない
浸水深0.5m以上のエリアでは、水のうは補助手段と考えるほうが現実的です。
ごみ袋だけの水のうは水深約10cmが限度とされています(葛飾区)。50cmの浸水に対しては5段積みが必要になり、そもそも水のうの自重では水圧に耐えられません。この場合は、家財の高所移動と早期の立ち退き避難を優先し、水のうは「トイレや排水口からの逆流防止」に用途を絞るのが合理的です。
水のうは浸水を防ぐ効果が期待できる手段のひとつですが、完全に防げるものではないとされています。危険を感じたら作業を中断し、早めに避難してください。地域の状況や住宅の構造によって効果は大きく変わります。
「調べる→測る→逆算する→作る」の順番。逆算の結果、総重量が現実的でなければ作らない判断も正解です。
水のうの作り方は?基本の3ステップ

水のうは、厚手のゴミ袋2枚を二重にし、水を袋の半分まで入れ、空気を抜いて口を固く結べば完成します。所要時間は1個あたり約1分、40L袋で1個約20kgになります。
基本手順(玄関前に並べる用)
- 袋を二重にする:45L程度の厚手ゴミ袋を2枚重ねます。薄手の袋は破れやすいため、可能なら「指定ごみ袋」など厚手のものを選びます。
- 設置場所の近くで水を入れる:水を入れると運べなくなります。必ず「置く場所の近く」で注水してください。ホースやバケツ、風呂の残り湯も使えます。
- 袋の半分まで入れる:40L袋なら約20L(約20kg)。入れすぎると持ち上がらず、少なすぎると水圧に負けて動きます。
- 空気を抜く:内側の袋の口を絞りながら空気を押し出します。空気が残ると水のうが浮いて隙間ができます。
- 内袋・外袋の順に固く結ぶ:それぞれ根元で固結び。ひねってから結ぶと緩みにくくなります。
- 隙間なく並べる:壁と袋、袋と袋の間に隙間を作らないよう、押し付けながら並べます。
積み重ねたいなら「土のう袋」に入れる
2段以上積むなら、ごみ袋のままでは崩れます。土のう袋との併用が前提です。
葛飾区の資料では、ごみ袋を土のう袋に重ねて作れば形が保たれ、積み重ねができると説明されています。ごみ袋単体は丸い形状で安定せず、上に乗せた袋が滑り落ちるためです。土のう袋はホームセンターやネット通販で1枚数十円から入手できます。
段ボールを使う「水のう入り防水壁」
より高さを出したい場合は、段ボール箱に水のうを詰める方法があります。
取手市が公開している「水のう入り防水壁」の作り方は具体的です。
500mlペットボトル24本入りの空き箱3箱に対し、40L指定ごみ袋を6枚(段ボール数の2倍)使用。袋に水を3分の1〜半分入れて二重にし、箱に詰めてガムテープで封をし、ブルーシートで包む。水のうは土のうより比重が小さいため、浸入する水の高さに応じて2段〜3段積みで使う。 — 取手市「身近なもので簡単にできる『水のう入り防水壁』の作りかた」
段ボールが箱型の骨格になるため、積み重ねても崩れにくく、ブルーシートで包むことで水の回り込みも抑えられます。
ブルーシートは、水のうを並べた列の「外側(水が来る側)」から覆いかぶせ、下端を水のうで押さえると止水性が上がります。テープでの目張りは、あくまで補助と考えてください。
何個必要?浸水深から逆算する早見計算
必要個数は「開口部の幅(m)×5.5袋×必要段数」で概算できます。必要段数は想定浸水深÷10cmの切り上げです。幅1.6mの掃き出し窓を浸水深30cmに備えるなら、27個・約540kgが目安になります。
計算式の根拠
2つの一次情報を組み合わせています。
- 1m当たり5〜6袋:江戸川区「土のうステーション」によると、出入口1メートル当たり5〜6袋が必要とされています。本記事では中間値の5.5袋で計算します。
- 1段=約10cm:葛飾区の資料で、ごみ袋のみの水のうで防げるのは水深約10cmが限度とされていることを、1段あたりの実効止水高として採用しています。
計算式は次のとおりです。
必要個数 N = (開口部の幅 W[m] × 5.5袋) × 必要段数 S
必要段数 S = 想定浸水深 H[cm] ÷ 10cm(切り上げ)
我が家の水のう必要個数・重量 早見表
各セルの4つの数字は「必要個数/総重量/必要水量/給水所要時間」です。重量は40L袋に水半分=1個20kg換算、給水時間は蛇口10L/分で計算しています。
| 開口部の幅 | 浸水深10cm(1段) | 浸水深20cm(2段) | 浸水深30cm(3段) | 浸水深50cm(5段) |
|---|---|---|---|---|
| 0.9m(玄関ドア) | 5個/100kg/100L/10分 | 10個/200kg/200L/20分 | 15個/300kg/300L/30分 | 25個/500kg/500L/50分 |
| 1.6m(掃き出し窓) | 9個/180kg/180L/18分 | 18個/360kg/360L/36分 | 27個/540kg/540L/54分 | 45個/900kg/900L/90分 |
| 2.4m(широ大開口・車庫) | 14個/280kg/280L/14分…※ | 27個/540kg/540L/54分 | 40個/800kg/800L/80分 | 66個/1,320kg/1,320L/132分 |
※2.4m×1段は14個/280kg/280L/約28分です。給水は蛇口1カ所あたり10L/分を想定しているため、2カ所同時に使えば時間は半分になります。
この数字が示す「撤退ライン」
表を見て最初に気づくのは、時間です。
幅1.6m×浸水深30cmで給水だけで約54分。袋を二重にする、空気を抜く、結ぶ、運んで並べる作業を足せば、実作業は2時間近くになります。台風の暴風域に入ってから始めて間に合う量ではありません。
総重量が300kgを超える規模になったら、水のうでの対応は現実的ではないと判断してください。300kg超は「水のうではなく、止水板+早期避難に切り替える」ラインです。作業中に浸水が始まれば、そのまま逃げ遅れにつながります。
必要個数=幅×5.5×(浸水深÷10)。逆算した給水時間が30分を超えるなら、着手は「台風の24時間前」が最終ラインです。
袋サイズ別の使い分けと、トイレ・排水口の水のう作り方
用途によって袋の容量と水の量を変えるのが正解です。トイレ逆流防止は5L袋に水半分(約2.5kg)、玄関前の壁は40L袋に水半分(約20kg)と、10倍近い差があります。
袋サイズ別 水のう仕様マトリクス
上位の解説記事では数値が混在していますが、用途が違えば正解も違います。自治体の実推奨と合わせて整理します。
| 袋容量 | 入れる水の量 | 1個の重量 | 扱える人の目安 | 向いている用途 | 根拠 |
|---|---|---|---|---|---|
| 5L・二重 | 半分程度 | 約2.5kg | 高齢者でも単独可 | トイレ便器内 | 調布市 |
| 20L・二重 | 半分程度 | 約10kg | 成人女性は可/高齢者は2人がかり | 浴室・洗濯機の排水口、玄関前の低い段 | 葛飾区の20kg基準を半量化した本記事の提案 |
| 40L+土のう袋 | 半分 | 約20kg | 成人男性向け | 積み重ねる玄関前の壁 | 葛飾区 |
| 40L・段ボール封入 | 1/3〜1/2 | 箱ごと運搬 | 2人以上推奨 | 防水壁として2〜3段積み | 取手市 |
同じ40L袋でも水量が違う理由:トイレ用は便器から水を溢れさせないため少量に、防水壁用は水圧で動かないため多めにします。用途が「重しにする」か「栓にする」かで最適解が変わります。
トイレの水のうの作り方
トイレの逆流防止には、5L程度の小さいゴミ袋を使います。大きい袋だと便器から水が溢れます。
調布市の案内では、大雨時のトイレ逆流防止として次の手順が示されています。
5リットル程度のゴミ袋を2枚重ねにし、持ち運べる程度の水を半分くらい入れ、空気を抜いて口を縛って便器内にゆっくり入れる。使用後の袋はトイレに流さない。 — 調布市「大雨時にトイレが流れづらい場合の逆流防止法」
手順は次のとおりです。
- 5L程度のゴミ袋を2枚重ねる
- 水を半分ほど入れる(約2.5kg)
- 空気を抜いて口を固く結ぶ
- 便器の排水口を塞ぐように、ゆっくり沈める
急に落とすと水が跳ねます。また、水のうを入れている間はトイレを使用できません。
浴室・洗濯機の排水口
内水氾濫時は、低い位置の排水口から下水が噴き出すことがあります。浴室の排水口、洗濯機の排水口(防水パン)、1階の洗面台の排水口が対象です。
20L程度の袋に水を半分入れた約10kgの水のうを、排水口の上に重しとして載せます。密着させることが重要なので、排水口周りのゴミや髪の毛は先に取り除いてください。
逆流防止は「早めに設置、遅めに撤去」が原則です。雨が止んでも下水管内の水位はしばらく高いままのことがあるため、周囲の道路冠水が引くまでは外さないでください。
水のうと土のうの違いは?どちらを選ぶべきか
水のうは「水道と袋があれば自宅で今すぐ作れる」、土のうは「重くて安定し、高さを出せる」という違いです。入手性なら水のう、止水性能なら土のうで、併用が最も現実的です。
比較表
| 項目 | 水のう | 土のう |
|---|---|---|
| 材料 | ゴミ袋+水道水(自宅にある) | 土のう袋+砂(調達が必要) |
| 入手 | 即時 | 土のうステーション等へ取りに行く |
| 1個の重量 | 40L半分で約20kg | 中身の砂で約5〜10kg |
| 比重 | 小さい(水と同じ約1.0) | 大きい(締まった砂は約1.5〜1.8) |
| 安定性 | 丸く転がりやすい/単体では積みにくい | 形が崩れて隙間を埋め、積み重ねやすい |
| 高さ | ごみ袋のみは約10cmが限度(葛飾区) | 複数段の積み上げが可能 |
| 事前準備 | 直前でよい(ただし断水前) | 平時に確保しておく必要あり |
| 事後処理 | 水を抜けば軽い/袋は可燃ごみ | 重い/自治体の回収ルールに従う |
「比重が小さい」が意味すること
水のうの弱点は、止めようとしている水と同じ重さしかないことです。
取手市の資料では、水のうは土のうより比重が小さいため、浸入する水の高さに応じて2段〜3段積みで使うと説明されています。土のうが自重で水圧を受け止めるのに対し、水のうは水位が上がると押し流されやすくなります。段数でカバーするか、段ボールやブルーシートで一体化して面で受けるかの工夫が必要です。
土のうステーションを使う
多くの自治体が、誰でも自由に取り出せる土のう置き場を設置しています。
江戸川区の例では、区内47箇所に土のうステーションが設置され、誰でも自由に取り出せるとされています。中身は約5kg〜10kgの砂で、出入口1メートル当たり5〜6袋が必要と案内されています。
土のうステーションは、台風接近時に補充が止まったり、飛散防止のため撤収されたりすることがあります。直前に行っても空の可能性があるため、「48時間前までに確保」が実務的なラインです。設置場所と在庫状況は、お住まいの自治体サイトで必ず確認してください。
玄関前の主戦力は土のう、足りない分と屋内(トイレ・排水口)は水のう。この役割分担が最も無理がありません。
高齢の親の家はどうする?体力別の分割設計
40L袋の水のう1個は約20kgで、高齢者が単独で運べる重量ではありません。答えは「袋容量を落として個数を増やす」+「運ばずに設置場所で注水する」の2点です。
20kgを運ばせない3つの工夫
上位の解説では「土が不要で女性や高齢者でも作れる」と書かれていますが、作れることと運べることは別問題です。
- 設置場所で注水する:バケツやペットボトル、ホースで水を運び、袋は玄関前に置いたまま注水します。20kgの塊を運ぶのではなく、水を小分けで運ぶ方式に変えます。
- 20L袋・水半分(約10kg)に分割する:個数は倍になりますが、1個10kgなら米袋1つ分です。1個20kgを1個運ぶより、10kgを2回のほうが安全です。
- キャリーカートや台車を使う:買い物用のキャリーカートで注水済みの袋を運べます。ただし濡れた床では滑るため、無理はしないでください。
遠方の親のために、離れていてもできること
離れて暮らす親の家は、「モノを届ける」より「手順を決めておく」ほうが効きます。
- 平時に備蓄を送っておく:厚手ゴミ袋と土のう袋は軽く、宅配で送れます。台風接近後の配送は止まります。
- やる範囲を絞って伝える:高齢の親には「玄関前の壁」ではなく「トイレと浴室の排水口だけ」と用途を絞って伝えるのが安全です。5L袋なら約2.5kgで、単独で扱えます。
- 近隣の協力者を決めておく:自治会や近所の方に、事前に声かけをお願いしておきます。当日の依頼は間に合いません。
- 電話で一緒に手順を確認する:このページを印刷して親の家に置いておき、電話でチェックリストを読み上げる方法が確実です。
濡れた床での重量物の運搬は、転倒・腰痛のリスクが高まります。高齢の方や持病のある方は、水のう作りより早めの避難を優先してください。避難行動に不安がある場合は、平時に自治体の避難行動要支援者名簿への登録を相談することも検討してください。
親の家では「作る量」を減らし、「作る場所」を屋内(トイレ・排水口)に限定する。これが最も現実的な分割設計です。
いつ作る?台風接近72時間タイムライン
水のうは水道が生きているうちにしか作れません。断水・停電後は作れないため、着手は遅くとも24時間前、逆算した給水時間が長い家庭は48時間前が目安です。
72時間タイムライン×担当者別チェックリスト
印刷して冷蔵庫に貼れる形にしています。右列の「親の家」は、誰がやるかまで書き込んでください。
| 時点 | 自宅でやること | 親の家で手配すること(誰が) | 使う情報源 |
|---|---|---|---|
| 72時間前 | □ ハザードマップで想定浸水深を確認<br>□ 開口部の幅を測り必要個数を逆算<br>□ 厚手ゴミ袋・土のう袋の在庫確認 | □ 同じくハザードマップ確認(担当:____)<br>□ 袋の在庫を電話で確認(担当:____) | 重ねるハザードマップ/自治体サイト |
| 48時間前 | □ 最寄りの土のうステーションで確保<br>□ 段ボール・ブルーシート・ガムテープを用意<br>□ 側溝・雨どい・排水溝の詰まりを掃除 | □ 袋を宅配または近隣の方が届ける(担当:____)<br>□ 土のうステーションの場所を伝える(担当:____) | 自治体の土のうステーション一覧/台風進路予報 |
| 24時間前 | □ 断水前に水のうを作る<br>□ 浴槽に貯水(生活用水)<br>□ 飲料水1人1日3L×3日分を確認<br>□ 車を高台へ移動 | □ 電話で一緒に手順確認(担当:____)<br>□ トイレ用5L水のうを作ってもらう(担当:____) | 気象庁の警報・注意報/自治体の防災メール |
| 12時間前 | □ トイレ・浴室・洗濯機の排水口に設置<br>□ 玄関・掃き出し窓の前に隙間なく配置<br>□ 避難経路と共用廊下をふさがないか確認<br>□ 스마ートフォン・モバイルバッテリーを充電 | □ 設置完了を電話で確認(担当:____)<br>□ 避難先と持ち出し品を確認(担当:____) | 自治体の避難情報/気象庁レーダー |
| 直前 | □ 「レベル4大雨危険警報」等が出たら作業を打ち切り避難へ<br>□ ブレーカー・ガス元栓の確認 | □ 避難の判断を共有(担当:____) | 新名称の防災気象情報 |
| 通過後 | □ 袋をカッターで開けて排水<br>□ 袋はトイレに流さず可燃ごみへ<br>□ 汚水に触れた床を消毒<br>□ 被害は写真撮影(保険・罹災証明用)<br>□ 止水板助成の事前相談 | □ 安否と浸水状況の確認(担当:____)<br>□ 片付けの人手を手配(担当:____) | 自治体の災害廃棄物案内/助成制度窓口 |
2026年5月29日から警報の名前が変わりました
避難のタイミングを判断する情報が刷新されています。
気象庁「新たな防災気象情報について(令和8年〜)」によると、2026年5月29日から新たな防災気象情報の運用が始まり、大雨・洪水・土砂災害・高潮の情報名に警戒レベルが付記されるようになりました。大雨警報は「レベル3大雨警報」、その上に「危険警報(レベル4)」、最上位に「氾濫特別警報(レベル5)」などと整理されています。
2026年の台風シーズンからは、この新名称が水のう作業の打ち切りラインになります。「レベル4」が付く情報が発表されたら、水のうづくりを止めて避難行動に移る、と家族で決めておいてください。
貯水の優先順位は「①飲料水(1人1日3L×3日)→②トイレ用の生活用水(浴槽)→③水のう用」です。水のうのために飲料水を犠牲にしないでください。
台風が過ぎた後の後始末と、来年への切り替え
使用後の水のうは、袋をカッターで開けて排水し、袋は可燃ごみ(自治体区分に従う)として処分します。トイレや下水に流してはいけません。
後始末の手順
- 周囲の水が引いてから作業する:排水口の水のうは、道路の冠水が引くまで外さないでください。
- その場でカッターを入れて排水する:20kgを運ぶより、その場で開けて流すほうが安全です。汚水に浸かっていた場合は、庭や側溝など指定された場所に流し、屋内には持ち込みません。
- 袋は絶対にトイレに流さない:調布市の案内でも、使用後の袋はトイレに流さないよう明記されています。詰まりの原因になります。
- 廃棄区分を確認する:多くの自治体でポリ袋は可燃ごみですが、土のう袋や汚泥が付いたものは扱いが異なる場合があります。災害後は特別な回収ルールが出ることもあるため、自治体の案内を確認してください。
- 床を消毒する:汚水に触れた床は、洗浄後に消毒します。手袋・長靴・マスクを着用してください。
- 写真を撮る:片付ける前に、浸水の高さが分かる写真を撮ります。罹災証明や保険請求の資料になります。
賃貸・分譲マンションでの設置ルール
共用部分の使用には制約があります。トラブルを避けるため、事前確認が必要です。
- 共用廊下・階段をふさがない:避難経路の確保は消防法上も重要です。玄関前の廊下に水のうを積む場合は、通行と避難の妨げにならない幅を残してください。
- 管理規約と管理会社に確認する:分譲マンションでは共用部分の一時使用に管理組合のルールがあることがあります。
- 1階・地下は特に注意:地下駐車場や半地下住戸は、道路より低いため浸水が集中します。管理組合として止水板を検討する価値があります。
汚水には下水由来の細菌などが含まれる可能性があります。素手で触らない、傷口を触れさせない、作業後は手洗い・消毒を徹底してください。体調に異変を感じた場合は医療機関にご相談ください。
来年は「水のう」から「止水板」へ
水のうは毎年の労力がかかります。恒久対策への切り替えを検討する価値があります。
2025〜2026年にかけて、止水板の設置助成を新設・拡充する自治体が増えています。
- 大田区:止水板設置工事の助成は個人4/5(区内住民登録あり・上限100万円、なし・上限50万円)、法人3/5(上限150万円)。簡易型止水板の購入は個人上限25万円・法人20万円。令和7年9月の記録的短時間大雨を契機に開始され、令和8年度も実施されています。
- 四日市市:止水板等設置補助金は対象経費の1/2(上限50万円、千円未満切捨て)。令和8年1月5日受付開始です。
申請の順序を間違えると全額自己負担になります。大田区は「区の交付決定前に工事をすると助成対象外」、四日市市は「設置・購入前に危機管理課へ相談が必要で、設置後の申請は補助対象外」と明記しています。見積もりを取る前に、まず自治体の窓口へ相談してください。制度内容・予算枠・受付期間は年度ごとに変わるため、必ず最新の公式情報をご確認ください。
今年は水のうでしのぎ、台風シーズン明けに助成金の事前相談、来シーズンまでに止水板。この接続を作るのが、毎年20kgを運ばずに済む唯一の道筋です。
専門家・公的情報の見解
公的機関は水のうを「手軽な自助手段」と位置づけつつ、完全に浸水を防ぐものではないと共通して注意を促しています。効果を過信しないことが前提です。
被害の規模を数字で見る
国土交通省の水害統計調査(令和5年 暫定値、2024年10月8日公表)によると、令和5年の水害被害額は全国で約6,800億円(暫定値)、被害棟数は約31,400棟、水害区域面積は約19,700haでした。平成26年〜令和5年の10年間で3番目の被害額とされています。
この規模の被害が毎年発生している以上、水のうのような自助手段は「特別な備え」ではなく、浸水想定区域に住む家庭の日常的な備えと考えるのが現実的です。
自治体資料に共通する但し書き
複数の自治体資料を読み比べると、表現は違っても同じ趣旨の注意が繰り返されています。
- 簡易水のうは効果が期待できるが、完全に浸水を防ぐものではないこと
- 危険を感じたら作業をやめ、早めに避難すること
- ごみ袋だけでは防げる高さに限度があること(葛飾区は約10cm)
- 使用後の袋を下水に流さないこと(調布市)
自宅の浸水リスクを別角度から知る
火災保険の「水災等地」も、浸水リスクの目安として使えます。
ソニー損保の解説によると、火災保険は2024年10月の改定で水災料率が市区町村単位の5区分に細分化され、参考純率は全国平均13.0%の引き上げ(過去最大)となりました。水災リスク5等地の保険料は1等地の約1.2倍で、2026年時点も適用中です。
自宅の水災等地が4〜5等地なら、行政のハザードマップと合わせて「浸水リスクが高い地域」と判断する材料になります。加入中の保険証券や保険会社の案内で確認できます。
火災保険の水災補償は、契約によって付帯されていない場合があります。この機会に補償内容を確認しておくと、万一の際の復旧費用の見通しが立ちます。詳細は保険会社や代理店にご相談ください。
やってはいけないNG対応
最も危険なのは「浸水が始まってから外で作業すること」です。作業の質より、やめる判断のほうが命に直結します。
安全に関わるNG
- 浸水後に屋外で作業する:水深わずか数十cmでも歩行は困難になり、側溝や маンホールの位置が分からなくなります。冠水した道路での作業・移動は避けてください。
- 地下・半地下で作業を続ける:地下空間は短時間で水没し、水圧でドアが開かなくなることがあります。異変を感じたら即座に地上へ。
- 一人で20kgを無理に運ぶ:濡れた床での重量物運搬は転倒リスクが高まります。分割設計に切り替えてください。
- 「レベル4」の情報が出ても作業を続ける:2026年5月29日からの新名称で「レベル4」が付く情報は、避難のタイミングです。作業は打ち切ってください。
効果を損なうNG
- 薄手のゴミ袋1枚で作る:破れて水が漏れ、床が濡れるだけの結果になります。必ず二重にします。
- 空気を抜かずに結ぶ:水のうが浮き上がり、隙間から水が回り込みます。
- 水を入れてから運ぼうとする:20kgは持ち上げた時点で移動が困難です。設置場所で注水してください。
- ごみ袋のまま2段以上積む:形が安定せず崩れます。積むなら土のう袋か段ボールと併用します。
- 隙間を空けて並べる:水は最も低い隙間から入ります。壁と袋、袋と袋を密着させてください。
事後処理のNG
- 使用後の袋をトイレや下水に流す:調布市も明記している禁止事項です。詰まりの原因になります。
- 汚水を素手で扱う:手袋・長靴・マスクを着用してください。
- 助成金の交付決定前に工事を発注する:大田区・四日市市とも、事前相談・交付決定前の着工は対象外としています。
ここに挙げた項目は一般的な注意点です。実際の判断は、お住まいの地域の地形、住宅の構造、その時の気象状況によって変わります。迷ったら、水のうより避難を優先してください。
よくある質問
水のうはゴミ袋の何リットルを使えばいいですか?
用途によります。玄関前に並べる壁は40〜45L、トイレの逆流防止は5L程度が目安です。40L袋に水を半分入れると約20kg(葛飾区)になり、高齢者には重すぎるため、その場合は20L袋に半分(約10kg)へ分割してください。厚手の袋を選び、必ず二重にします。
簡易水のうの作り方で、土のう袋は必要ですか?
1段だけなら不要、2段以上積むなら必要です。葛飾区の資料では、ごみ袋を土のう袋に重ねて作れば形が保たれ積み重ねができると説明されています。ごみ袋単体は丸く転がりやすく、積んでも崩れます。土のう袋の代わりに段ボール箱へ封入する方法(取手市の「水のう入り防水壁」)も有効です。
水のうと土のうはどちらが効果的ですか?
止水性能は土のう、入手性は水のうです。土のうは比重が大きく安定し積み上げやすいのに対し、水のうは水と同じ比重のため押し流されやすく、ごみ袋のみでは水深約10cmが限度とされています(葛飾区)。玄関前は土のうを主力に、屋内の排水口や不足分を水のうで補うのが現実的です。
水のうは台風の何時間前に作ればいいですか?
遅くとも24時間前、必要個数が20個を超える場合は48時間前が目安です。水のうは水道が使えるうちにしか作れません。幅1.6mの窓を浸水深30cmに備えると27個・給水だけで約54分かかる計算になり、暴風が始まってからでは間に合いません。土のうステーションは台風接近時に補充停止や撤収があるため、48時間前までの確保をおすすめします。
使い終わった水のうはどう処分しますか?
その場でカッターを入れて排水し、袋は自治体の区分に従って処分します。多くの自治体でポリ袋は可燃ごみですが、汚泥が付着した場合は扱いが異なることがあります。使用後の袋をトイレに流さないことは調布市も明記しています。汚水に触れた床は洗浄後に消毒し、作業時は手袋・長靴を着用してください。片付け前に浸水高さの写真を撮っておくと、罹災証明や保険請求に役立ちます。
まとめ
水のうの作り方自体は、ゴミ袋を二重にして水を半分入れ、空気を抜いて結ぶだけの3ステップです。差がつくのは、その先の設計です。
- 逆算する:必要個数=開口部の幅×5.5×(想定浸水深÷10cm)。総重量300kg超なら水のうは主役にしない
- 分割する:40L=20kgは高齢者には重い。20L=10kgへ、屋内用は5L=2.5kgへ
- 間に合わせる:水道が生きている24〜48時間前に着手。「レベル4」の情報が出たら作業を打ち切って避難
- つなげる:今年は水のう、シーズン明けに止水板助成の事前相談。交付決定前の着工は対象外
まずは、お住まいの地域のハザードマップで想定浸水深を確認し、玄関と掃き出し窓の幅を測ってください。この2つの数字があれば、必要個数は今日のうちに出せます。
本記事は公的機関の公開情報をもとに一般的な備えを整理したものです。制度内容・助成額・受付期間は自治体や年度によって異なり、変更される場合があります。実際の対応にあたっては、お住まいの自治体の防災担当窓口、管理組合、保険会社など、それぞれの専門窓口へご相談ください。避難の判断は、必ず最新の気象情報と自治体の避難情報に従ってください。
最終確認日:2026年8月7日




